Windows of Opportunity

自由競争市場にまかせれば経済問題はすべて解決し、力強い経済成長が自然発生的に起こるとういう考えに基いた政策は、過去の例でも成功することはまれである。

国は、イノベーションが国の経済成長の源泉だと認識し、イノベーションを自由競争市場にゆだねるのではなく、企業がイノベーションを進めることを後押しする政策を主体的に実施すべきである。

自由競争至上主義がはびこっている

日本を含めた先進国はこの十数年、低成長に悩まされている。理由として考えられるのは,低成長を克服する政策を実施している一方で,自由競争主義に基づき,国の役割を減じ,自由市場を作ることを目標とし,イノベーションを民間に丸投げしていることである。自由競争市場では,安い原材料,安い賃金,安い土地を使って,コスト競争力のある製品・商品を作ることが目指すことになり,付加価値の高いものは作られなくなる。企業が切磋琢磨し、競争することで経済成長が達成できるはずなのに、現実はそうはなっていない。

今、必要なのは、国の適切な産業政策である。 (Sainsbury 2020)

民間にゆだねてもうまくいかない

  • イノベーションには段階がある

    イノベーションには4つの段階がある。

    1. 純粋な科学技術分野の探求段階
    2. さまざまな分野で後の商品化に使えるかも知れないということを実証する段階
    3. 特定の業界で広くつかわれる技術まで開発を進める段階
    4. 特定の科学理論、技術を使った製品化・商品化の段階

    (Atkinson 2012)

    1.の段階は物理的発見などがかかわり、特許となりえないものであるため、純粋な科学技術分野のイノベーションは国の役割である。国立や研究所や大学が担うべき役割である。

    2.の段階は特許は一部取れるかも知れないが、まだまだ成功率は低く、民間企業は二の足を履む段階である。generic technologyと呼んでいる。

    3.の技術はInfra-technologyと呼んでおり、特定の業界に広く使われている技術のことである。この段階から民間の役割が大きくなってくるが、ただで技術を拝借するFreee riderが発生するのはこの時である。大半の特許技術がこのあたりだろう。

  • うまくいかないイノベーションの段階

    これまで書いたように、1.の段階や2.の段階、3.の段階の一部は、民間企業にはリスクが大きく、高いエントリーバリアがあるため、イノベーションを進める場合は国が政策的に支援しなければならない。

国がやるべきこと、やるべきでないこと

国はありとあらゆるすべてのイノベーションを支援することは不可能であり、政策支援しない分野、政策支援する分野の選択をしなければならない。決めるにあたっては、さまざまな状況を勘案し、イノベーションとして成功する確率が高い分野を選択するのは言うまでもないことである。

ただし、政策支援する分野を決めたとしても、決して特定の技術、特定の企業を選んではならない。最近の失敗例でいえば、再生可能エネルギー買取制度(FIT)の太陽光発電導入への政策支援があった。当初、政府は、太陽光発電がイノベーションを巻き起こすと考え、当時、破格の条件で太陽光発電からの電気の買取を始めた。しかし、実際に起ったことは、海外の安い太陽電池が大量に使われるだけで、太陽光発電設備の国内メーカには、恩恵ももたらさなかったし、イノベーションも起きなかった。国富が中国に流れるだけの結果である。

同じ轍を踏んではならない。

民間サイドのイノベーターはどう対処すべきか

Infra-technologyが確立している分野では、そのtechnologyを活用して、どんどん製品開発、商品開発を進めていけばよい。このケースで問題が発生するとすれば、Infra-technologyと考えていたものが、実はそうではなかったということぐらいだろう。この条件をクリアしても、すべてがうまくいくのではなく、通常のスタートアップと同様、試行錯誤は避けられない。

もうひとつのケースとして、Infra-technologyすらはっきりしていない状況でどう動くかが、イノベーションを成功させる鍵を握る。

優秀な人材が豊富な企業と大学が集っているクラスターの一員となることがイノベーションの成功率を上げるのに役立つ。

そのようなクラスターがない場合は、自力でやるしかないが、残念ながら成功の例は多くない。

イノベーションがどの段階にあるかによって、やらなければならないことが変ること、成功の確率も違いがあることに留意し、どの分野を選び、どう進めていくかが、イノベーターの腕の見せどころだ。

Bibliography

Atkinson, Robert. 2012. Innovation Economics : the Race for Global Advantage. New Haven: Yale University Press.

Sainsbury, David. 2020. Windows of Opportunity : How Nations Create Wealth. London: Profile Books Ltd.